2025年4月のプライム市場における英文開示義務化から1年あまり。決算短信や決算説明資料、統合報告書の英語版を発行する企業は着実に増えました。しかし「出す」段階の次に問われるのは、その英文が海外投資家にどう読まれているかです。
当社は英文IR資料の品質診断サービスの開発にあたり、日本企業の英文統合報告書と、海外機関投資家が日常的に読んでいる米国企業のネイティブ執筆文書を、同一の基準で定量比較しました。本記事では、その中から「日本企業の英文に頻出し、ネイティブ文書にはほとんど登場しない表現」のランキングを公開します。
調査の概要
- 日本企業側: 日本大手5社の英文統合報告書(GPIF「優れた統合報告書」選定企業・国際アワード受賞企業を含む)、本文計 約19.4万語
- 比較対象: 米国大手企業3社の株主レター・アニュアルレポート(ネイティブ執筆)、本文計 約4.5万語
- 方法: 各表現の出現回数を活用形を含めて集計し、10万語あたりの出現頻度に換算して比較(2026年9月時点・当社参照コーパスは継続拡充中) ※本ランキングは10万語あたりの出現回数です。無料診断のレポートでは1万語あたりの密度で表示します。
なお、本調査は個別企業の評価を目的としたものではないため、社名は伏せています。対象は日本語版の評価が高い、日本を代表する企業の英語版です。
頻出「直訳英語」ランキング
| 順位 | 表現 | 日本大手5社 (10万語あたり) | 米国大手3社 (10万語あたり) | 頻度差 | 対応する日本語 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | enhance / enhancement | 179.2回 | 13.4回 | 約13倍 | 強化・向上・充実 |
| 2 | initiative(s) | 169.9回 | 13.4回 | 約13倍 | 取組・施策 |
| 3 | promote / promotion | 160.1回 | 28.9回 | 約6倍 | 推進する |
| 4 | etc. | 135.4回 | 6.7回 | 約20倍 | 〜など・〜等 |
| 5 | strengthen | 130.2回 | 15.6回 | 約8倍 | 強化する |
| 6 | activities | 90.1回 | 11.1回 | 約8倍 | 活動・取組 |
| 7 | measure(s) | 88.0回 | 44.5回 | 約2倍 | 施策・対策 |
| 8 | effort(s) | 84.9回 | 33.4回 | 約3倍 | 努力・取組 |
| 9 | various | 80.3回 | 24.5回 | 約3倍 | 様々な・各種 |
| 10 | utilize / utilization | 70.0回 | 8.9回 | 約8倍 | 活用する |
データから見える3つのポイント
1. 「contribute to」はネイティブ文書に一度も登場しなかった
ランキング外で最も象徴的だったのが「contribute to(〜に貢献する)」です。日本企業側では10万語あたり57.1回登場する定番表現ですが、今回比較した米国大手3社の文書には一度も登場しませんでした。「持続可能な社会の実現に貢献する」をそのまま英語に置き換えた “contribute to the realization of a sustainable society” のような文は、日本企業の英文IRにほぼ必ず現れる一方、英語で書かれた投資家向け文書ではまず見かけない——直訳の存在を最もはっきり示すデータです。
2. 「etc.」の20倍差が意味するもの
頻度差が最も大きかったのは「etc.」の約20倍でした。日本語のIR文書では「〜等」「〜など」が多用されますが、英語の投資家向け文書でetc.を使うと「列挙し切れていない・詰め切れていない」という印象を与えるため、ネイティブはincluding〜やsuch as〜で代表例を示すか、そもそも言い切る書き方を選びます。「等」を機械的にetc.へ置き換える翻訳の痕跡が、この20倍差に表れています。
3. 問題は「使うこと」ではなく「密度」
誤解のないように補足すると、measure(s)やeffort(s)はネイティブも普通に使う語です(頻度差は2〜3倍にとどまります)。問題はひとつひとつの語ではなく、「取組」「推進」「強化」「活用」という日本語の定型句が、initiatives・promote・strengthen・utilizeへ一対一で機械的に変換され続けることにあります。その結果、文書全体が抽象的な名詞と決まり文句で埋まり、海外投資家には「具体的な数値や意思決定の乏しい、翻訳された文書」という印象を与えてしまいます。当社の実測では、こうした直訳調マーカーの総密度は、日本大手企業の統合報告書でネイティブ文書の約6倍、四半期ごとにスピード優先で制作される決算説明資料ではさらに高い傾向がありました。
改善の方向性 — 「言い換え」ではなく「情報を足す」
これらの表現を単に類語に置き換えても、英文は良くなりません。ネイティブの投資家向け文書との本質的な違いは、抽象語の位置に具体的な数値・期限・意思決定が入っていることです。
- “We will promote initiatives to strengthen our business” →「何に・いくら・いつまでに」を足して “We will invest ¥◯◯ billion over three years to expand ◯◯ capacity by ◯%” のように書く
- “various measures, etc.” → 代表的な施策を2〜3個、固有名詞と数値で言い切る
つまり英文品質の改善は、翻訳の問題であると同時に、開示コンテンツそのものを投資家目線で設計し直す作業でもあります。決算説明資料に特有のつまずきと実務対応はこちらの記事で解説しています。
貴社の英語版はどうか — 無料で診断できます
当社では、本調査と同じ基準で貴社の公開済み英文IR資料(統合報告書・決算説明資料など)を分析し、品質スコア・ネイティブ水準との比較・改善例をレポートでお届けする無料の簡易診断を提供しています。お申込みはフォーム入力のみ、貴社にご用意いただくものはありません。
【調査の注記】本調査は当社参照コーパス(2026年9月時点)に基づくものであり、サンプル企業数は限定的です。コーパスは継続的に拡充しており、数値は今後更新される可能性があります。個別の表現の使用が直ちに誤りであることを意味するものではありません。
